第4章 修行

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 女の子の顔から表情が消え、目の下がピクピクと痙攣した。  リョウは、たまらなく暗く、悲しい気持ちになった。 「ぼくを、手下にしたいの?」  女の子の両目が、きゅうっと吊り上がった。 「やめたほうがいいよ。ここには、とても強い〈狗番(きつねばん)〉がいる。きっと、痛い目にあうよ」  リョウはしずかに、さとすように言った。あたまの中には、昨夜のマキのおそろしい姿が蘇っていた。  今や女の子は、ものすごい形相になっていた。鼻のあたまにしわが寄り、唇の端がめくれて歯がむき出している。 「毎日毎日……」  女子高生に化けた〈(きつね)〉は、ギリギリと歯をくいしばった。 「くっだらねえことでパシらされて……何が〈導き手〉だか……好きこのんでテメエに導かれたんじゃねえってのに……あたしだって、誰かの〈導き手〉になれば……こんな生活……」  ふつふつとたぎる怒りが、血走った目に充満した。 「畜生!」  絶叫すると、鞄を投げ捨てて突進した。 「ぎゃん!」  異様な声を発して、〈(きつね)〉は、鳥居の真下で見えない壁に跳ね返された。  吹っ飛ばされて、受け身もとれずに凍った地面にスライディングする。  手をついて上げた泥まみれの顔から、鼻血が流れ出た。  〈(きつね)〉は、火のような視線をリョウに投げつけると、一目散に逃げて行った。
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