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台所に戻ると、京子が心配そうに出迎えた。
「まあ、なかなか帰ってこないから、見に行こうかと思っていたのよ」
リョウは無理して笑顔を作った。
「ごめんなさい。まだ来ていなかったんで、少し待っていたんです。それからこれ、落とし物みたいです」
京子は学生鞄を見て、目を白黒させた。
「いやだわ、なんでこんなもの」と、壊れ物でもあつかうように両手で受け取って、リョウと同じようにその軽さを意外に感じたようだった。
「とにかく、ご飯にしなさい。お腹すいたでしょう」と、せき立てた。
食卓では、父の食事がほとんど終わっており、マキはリョウを待っていた。リョウは謝りながら座に着いたが、マキは嫌な顔ひとつしなかった。
父が先に座を立ったあと、リョウは、さっきの〈狗〉のことをマキに話そうか話すまいか迷ったが、そのうち母が自分の食事も運んできて三人での食卓となったので、機会を失ってしまった。
(第4章 終わり)
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