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見えなくなる眼鏡を売っているお店がある、と、ネットの掲示板で私は知った。
探すのに手間取ったけれど、どうやらそのお店は鯖江市にあり、知る人ぞ知る名店らしい。
「着いた……」
夏の熱気が高ぶる午後、私は鯖江市の中にいた。街路樹から力いっぱい叫ぶセミの声が聞こえてきて、余計暑く感じられた。
スマホを取り出して、地図を確認する。近くのはずなのに、見回しても民家しか見当たらない。
うーんと首をひねっていると、ふと視線を感じた。振り返ってみるとそこには、
「ひっ……」
いつの時代の誰なのかもわからないが、白い着物の女の人がいた。ホラー映画よろしく、怨めしげに長い前髪の隙間から私を睨んでいる。夏の午後だというのに、血の気が引いて寒くなり、足が竦んで、私は動けなくなってしまった。
ざわざわと、その女性の後ろにある、街路樹にしては大きな木が枝を揺らした。暑さに負けずその枝に咲いている白い花が、手招きする無数の手に見えた。
心臓が早鐘を打つ。いつもならすぐ目をそらして逃げ帰るのに、今日の私はまるで地面に縫いとめられたように動けなかった。
私の視線の先で、着物の女性はニタリと笑った。
《お客かえ……さあおいでな……》
ささやくような女性の声が、頭に直接響いてきた。意味がわからず混乱したまま突っ立っていると、不意に肩を叩かれる。
「きゃあっ……」
驚いて、声を上げて目をつぶる。すると、待って落ち着いてと、若い男の声がした。
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