見えなくなる眼鏡

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 見えなくなる眼鏡。それは、見えなくていいものを見てしまう霊感体質の人がかけると、かけている間だけ霊が見えなくなるという噂の眼鏡のことだ。  ネットの掲示板などで流れている噂でしかなかったものだけれど、私はそれを求めてここまできた。人間以外に出迎えられるとは思ってもいなかったが。  私がうなずくと、敏次は優しい目をした。 「そう。それが必要なくらい、いままで苦労してきたんだね。ようこそ、ここまでいらっしゃいました。大変だったでしょう」  慈しむようにいわれて、私の心の中でなにかが溶けた気がした。いままで、見たくもないものが見えて、怖くて、そのたびに必死に見えないふりをしてごまかしてきた。友達にもなかなかいえず、わかってくれる人もいなくて寂しかった。  これまでの私の人生、十八年分の苦労を、この人はわかって労ってくれている。そう思うと、涙があふれてきた。 「泣かない泣かない。さあ、店に案内するよ。おれは斎藤敏次。君は?」 「神山、美雪です……」  涙を拭いて答えると、敏次はそう、とうなずきながら歩き出した。私はそれについていく。 「悪いね美雪ちゃん。さっきのはキョウチクトウの精霊なんだ」  歩きながら、敏次は説明してくれた。先程のキョウという女性は、街路樹のキョウチクトウの精霊で、頼んだわけではないが、暇つぶしで客引きをしてくれているのだと。
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