谷田という女

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 晋平はアルバムを閉じ、元の箱に入れて押し入れへと仕舞う。ベッドに力なく倒れると、そのまま眠ってしまった。  暫くすると、スマートフォンが振動していることで晋平の意識は覚醒した。着信のようだった。相手は……島田だ。  時計を見ると深夜2時を回っている。流石に同窓会はお開きになっているだろう。文句の電話か謝罪の電話か、どちらにしろ晋平にとって良いものではない。  出るか迷って、一向に諦める様子の無い島田からの着信を知らせるディスプレイの表示に深い溜息を漏らしてから通話をオンにした。 「もしもし! 大変なんだ!」  電話に出るなり、有無を言わさず島田の声が飛び込んできた。相当興奮している様子だ。 「谷田が! 死んだ!」  思わず晋平は耳を疑った。死んだ? 死? 非日常的な単語が脳内を駆け巡るも、谷田と死という単語が結びつかず、寝起きの頭はさらに回転を鈍らせる。  尚も興奮したままの島田が晋平に必至に状況の説明をしていく。数時間前、楽しく飲んでいる最中に急に意識を失い、救急隊が駆けつけたが、その場で死亡が確認されたそうだ。  あの場の雰囲気だ。急性アルコール中毒か何かだろうと晋平は勝手に決めつけた。何より、谷田が死んだということに何も感情が湧いてこないことに晋平は驚いた。一瞬、アルバムで穴だらけにした谷田の顔が脳裏に過ぎったが、すぐに霧散した。  島田は一頻り説明を終えると、一方的に通話を切った。元クラスメイトが死んだ。そんな現実味の無い言葉に、晋平はただ宙に視線を彷徨わせるだけだった。
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