追憶

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 結香は晋平の幼馴染みということになる。しかし、結香の両親は数年前に離婚し今は離れ離れだ。両親はどちらも地元であり、離婚しても父親はそのまま結婚して建てた家に住み、母親は実家へと身を寄せた。だからどっちも近くには住んでいる。  結香は基本的には母親の実家に暮らすが、たまに父親のいる幼少住み慣れた家へと帰る。一人娘である結香が両親どちらとも離れたくないと大泣きした過去が、一度は愛し合った夫婦に訪れた亀裂をギリギリで繋ぎ止めた。いや、繋ぎ止めたと言うのはポジティブ過ぎる。落とし所という表現が適正か……両親は互いに結香が好き勝手に父親と母親の間を行き来していることを黙認している。  しかし、親権を勝ち取った母親が、高校生にもなった娘が父親の元へ行くことに若干の苛立ちを覚えていることも知っている。だからこそ、晋平は不安そうに結香に「いいのか?」と聞いたのだ。  それでも結香が父親の家に帰る時は晋平の心は弾んでいる。元々幼馴染みである2人にとって、結香が幼少に住んでいた父親の家に帰るという事は、同じ方向に帰る事を意味する。夏の太陽もじきに沈む。女子高生を1人で帰らせるわけにいかないことも事実だ。  そして、1人で帰るよりも守ってくれる人が一緒に居てくれる方がずっといいと結香が思ったのもまた事実。とどのつまり、2人の関係は友達以上、恋人未満。そういうことだ。  片付けも終わり、晋平はユニホームから制服に着替えた。2人だけの帰り道。晋平が少し手を伸ばしても手が触れることは無い微妙な距離感。しかし、ふと晋平の小指に結香の小指が触れた。見ると、結香も晋平と同じように少し手を伸ばしていた。ヒンヤリとした感触が小指に余韻を残す。2人から伸びた影法師だけが、2人の距離を縮めて手を重ねていた。
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