谷田という女

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谷田という女

 同窓会の誘いを一度は断った晋平の元にメールを送ってきた島田から今度は電話があった。直接来るように説得され、渋々了解したのだった。  学生の頃から憧れていた同窓会。それなのに全く気乗りしないのはどうしてか。答えは分かりきっているのに、一向に意識が戻らない結香の事ばかり考えていても気が滅入るだけで、少しでも気分転換になればと思っていた。  晋平は指定のあった居酒屋に入る。奥の方から騒がしい声が聞こえてきて、すぐにそこで会が開かれているのだと察した。 「おー、晋平! 遅いぞー」  晋平に気付くやいなや、晋平にしつこく同窓会に参加するよう口説いていた島田がビール瓶とグラスを両手に持ちながら歩み寄ってきた。  すると、周りで盛り上がっていた面々も次々に久しぶりだの元気にしていたかだのと晋平に話し掛けてくる。通り一辺倒な挨拶の嵐は一瞬のゲリラ豪雨で、長く降り続けば大災害だが案の定すぐに止んだ。  晋平はとりあえず島田の横に腰を落ち着けた。 「あれ? 結香ちゃんは?」  取り付く島もなく、島田はあっけらかんと聞いてきた。晋平は適当に「あぁ、ちょっとな……」と相槌を打って話を逸らそうとする。 「まさかフラれた!? まじかー! お似合いだと思ったのにー!」  間近で酒臭い息と共に大声で島田が叫んだ。するとそういう話が大好物な人種が目を爛々と輝かせながら集まってくる。 「え、何々、晋平と結香付き合ってたの?」  晋平の左隣に空いていた空席に同級生だった女性の谷田がドシンと音を立てる勢いで座ってきた。 「そんで晋平を捨てて、同窓会もぶっちとかマジ最低じゃんー。晋平、ここにいい女が転がってるよ! 拾うなら今だよー」  語尾に括弧笑なんて付けるようなトーンで谷田が笑みを浮かべている。その様子に、晋平はすぐに怒りが沸点に達した。こんなつもりで同窓会に来たわけでは無い。そんな想いがフツフツと沸き上がった。  久しぶりの再開で昂ぶったテンションと酒に酔った事で晋平が想像していた以上に無法地帯になっていた。  遅れなければもう少し周りの理性は残っていたのかも知れない。しかし、そんな事よりも酔っ払いとはいえ心無い言葉を浴びせられ、晋平は今にも殴りかかりそうな気持ちを必至に堪えていた。
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