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「それにしても結香、どんなに電話しても出ないんだもん。私がどれだけ結香に時間を割いてやったと思ってんだ! って感じ」
尚も谷田は続ける。同窓会のメンバーを集めるため、結香にも電話したが、連絡つかなかったことに憤っている様子だ。
晋平は料理にも、酒にも、全く口を付けないまま、財布から諭吉を1枚取り出して勢いよく平手でテーブルに叩きつけると、すぐに立ち上がって店の出口へと向かった。
晋平の背後からは、最初は静まりかえったものの、静寂は瞬く間に立ち消えて、「なにあれー」とか、「楽しい雰囲気壊すな」とか、様々な言葉が聞こえてきた。
唯一、島田だけが慌てて追いかけてきて晋平の肩を掴んだが、晋平が強い力で振り払ったことで島田は悪態をついて会の方へと戻っていった。
晋平が家に帰ると、床に放り出された高校の時のアルバムが目に入った。丁寧に厚めのブックカバーがしてあり、厳重に箱に入っていたはずのそれは無残にも床で開いたままに放置されている。
結香の母親から結香の事故を知らされた際、晋平が自棄になって引き出しや押し入れの中をグチャグチャに引っ掻き回すように暴れた。その時に拍子で床に転がったのだろう。
久しぶりに見る青春の思い出は、つい先程の事がフラッシュバックされて憎悪の塊に見えた。丁度開いているページは晋平のクラスの一覧の写真。自分の顔よりも、真っ先に結香の顔が目に飛び込んできた。
そして、結香の隣には谷田の写真が載っている。それを見た瞬間、怒りが再燃し、机に無造作に置かれていたボールペンを手に握った。そのまま怒りのままに振り下ろす。谷田の顔をボールペンが抉り、大きな穴が開いた。それでは飽き足らず、2回、3回と繰り返す。穴は広がり、そこに誰の顔があったかなど分からなくなってくる。
4回目。勢いよく振り下ろす。事もあろうに、手元が狂って隣の結香の顔を傷つけてしまった。そこでようやく晋平は我に返る。大切なアルバムをズタズタにしてしまった事、結香の顔にまで穴を開けてしまったこと。それらが晋平の頭を急激に冷やしていった。
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