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こんなところに誘い出してどうするつもりなのか、前を行く背中に、夏樹はただ視線を向けていた。
「今日のことは驚いただろう」
歩きながら、莉櫻が声を投げてくる。日に当たれば金にさえ見える彼の茶色の髪は、いまは外灯の下で暗くにごった色に見えた。
「あそこまで花が咲いたら、もう助からない。医務室の中ならともかく、外でそうなったらもう、助けを呼んでも間に合わないんだ。それに教えただろう。印から黒い光が零れたら、それはもう鬼になる前兆だ」
噛んで砕くようにいわれて、夏樹は視線を落とした。
「ああなった鬼憑きは、鬼と見なして退治する」
ひゅっと、夏樹は息を呑んだ。それにかまわず莉櫻はつづける。
「悠長に看取ってる間に鬼になられて、取り逃がしたら元も子もない」
「そんないいかたないだろう!」
虫の声や、水田からの蛙の声を押しのけて、夏樹の怒号はやけに響いた。莉櫻についていく足を止める。
「仲間だったんだぞ。看取るくらい当たり前だろう!」
莉櫻は夏樹を振り返った。
「看取って、そのあとは? なにもしなければ鬼になるだけだぞ」
「なってから退治すればいい」
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