4 師弟

39/63
前へ
/206ページ
次へ
 真っ暗な部屋の中、雨の音がやけに鮮明に聞こえた。風はないが、こんな雨の夜に愛利は訪ねてきたのだ。きっともう八時を回っている。良心的に考えれば、出迎えてやるべきだろうし、送っていくくらいはしたほうがいいのだろう。けれど、出るわけにはいかない。 「夏樹くん。わたしのお父さん知らない? 外食の約束してたのに、帰ってこないの。ねえっ」  帰るわけがない、と、夏樹は唇を噛みしめた。だって、莉櫻が殺したのだ。 「っ……」  あのときの光景が蘇る。  血まみれの金子と、それに刃を振り下ろした莉櫻。夏樹はなにもできなかった。どうすることもできずに、ただただ見ているしかできなかったのだ。  愛利に合わせる顔がない。  雨音の中で、夏樹は耳を塞いだ。  ――どれくらい時間が経っただろう。もしかしたら眠ったのかもしれない。暗いまどろみから浮上した夏樹の耳に、家の電話の着信音が聞こえた。  起き上がって、下の階に下りる。愛利の声は聞こえない。両親はまだ帰っていなかった。  暗い廊下にある机の上から受話器を取り上げると、 《よお夏樹。いま出られるか》
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!

161人が本棚に入れています
本棚に追加