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真っ暗な部屋の中、雨の音がやけに鮮明に聞こえた。風はないが、こんな雨の夜に愛利は訪ねてきたのだ。きっともう八時を回っている。良心的に考えれば、出迎えてやるべきだろうし、送っていくくらいはしたほうがいいのだろう。けれど、出るわけにはいかない。
「夏樹くん。わたしのお父さん知らない? 外食の約束してたのに、帰ってこないの。ねえっ」
帰るわけがない、と、夏樹は唇を噛みしめた。だって、莉櫻が殺したのだ。
「っ……」
あのときの光景が蘇る。
血まみれの金子と、それに刃を振り下ろした莉櫻。夏樹はなにもできなかった。どうすることもできずに、ただただ見ているしかできなかったのだ。
愛利に合わせる顔がない。
雨音の中で、夏樹は耳を塞いだ。
――どれくらい時間が経っただろう。もしかしたら眠ったのかもしれない。暗いまどろみから浮上した夏樹の耳に、家の電話の着信音が聞こえた。
起き上がって、下の階に下りる。愛利の声は聞こえない。両親はまだ帰っていなかった。
暗い廊下にある机の上から受話器を取り上げると、
《よお夏樹。いま出られるか》
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