161人が本棚に入れています
本棚に追加
莉櫻の声がした。人を殺めたあとだというのに、普段とまるで変わらない声が。
「なんの用だよ」
押し殺したような声で問いかけると、莉櫻は自嘲気味にいった。
《明日から一週間謹慎だからな。いまのうちに会って教えたいことがある》
人を殺して謹慎ですむ組織が、いまさらながら信じられないと思った。夏樹はなにもいえなくなって無言になったが、莉櫻はその沈黙をどう受け取ったのだろう。
コンコン、と、玄関のドアが鳴いた。
「出てこいよ。夏樹」
受話器とドアの向こう両方から、莉櫻の声がした。
人気のない夜道を、それでも外灯が健気に照らしている。
夏樹が住んでいる地区は町外れもいいところで、少し歩いただけで田畑に囲まれた寂しい場所に行きつく。
こんな時間に農作業をする人間がいるはずもなく、辺りにはまるで人気がなかった。
いまは止んでいたが、さっきまでの雨で道路は色を変え、まるで墨でもぶちまけられたように黒光りしている。
最初のコメントを投稿しよう!