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「話にならない」
吐き捨てるようにいってから、莉櫻は手を背後に回し、次に前に持ってきたときにはナイフを握っていた。ベルトに通していた鞘から抜き取った黒いサバイバルナイフが、外灯の光を受けて光っていた。金子を殺した凶器だ。
抜き身のナイフを向けられて、夏樹は反射的に飛びのいた。心臓がせわしなく動き始める。
相変わらず、辺りに人気はない。加えて、いまの夏樹は丸腰だった。普段護身用に身につけている折り畳みナイフも置いてきてしまっていた。
この場所と、ナイフを向けられた現状は、どう考えても物騒極まりなかった。
飛びのいて稼いだ距離は二メートルがいいところで、この距離から追われて逃げられるかと聞かれれば絶対に無理だった。莉櫻の足は、夏樹とは比べ物にならないほど速い。
「なん、だよ……おれのことも殺すつもりか」
恐怖を押し殺して絞り出した声は、情けないくらいにかすれていた。
六年、莉櫻とは一緒にいたけれど、彼が人を殺す姿は始めて見たし、こんなことも初めてだ。声を出せないのも身体が震えるのも、仕方のないことだった。
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