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その夏樹を見て、莉櫻はいった。
「おまえは甘すぎる。本当はやりたくなかったけど仕方ない」
なにをされるのだろうと、夏樹は身構えた。莉櫻は唇だけで笑った。
「いまから俺がすることは、昔夏乃がやったことだ。いいか、よく見てろ」
いうなり、莉櫻は右手で持ったナイフを、自分の左手首に押し当てた。そして、一気にその肌をかっ捌く。
外灯の光に飛び散る赤が照らされて、黒い地面へと落ちて跳ねた。
「なっ――なにやってんだ!」
突然のリストカットに、夏樹は自分の命が脅かされるのとは違う恐怖を覚えた。
莉櫻はナイフを一閃して血を払い、腰の鞘に納める。
「いてぇ……」
当たり前のことをうめいてしゃがむ彼に、夏樹は駆け寄った。
「いきなりなにしてんだよ!」
斬ったばかりの左手首を押さえている莉櫻の右手に、夏樹は自分の手を載せて圧迫した。本当はなにか止血できる布があればいいが、あいにくいまはハンカチすらない。
ぽたぽたと、地面に血が落ちる。
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