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実際に血を流しているのは莉櫻なのに、夏樹の身体からも血の気が引いた。
「あせんなよ」
やけに落ち着いた声で莉櫻がいった。そして夏樹の手をどけて、血まみれの右手で黒いジャケットのポケットを探り、大判のガーゼを取り出した。それさえも右手に付着した血ですでにまだらに染まっていたが、莉櫻は気にする風でもなく左手首にガーゼを乗せて、また右手でポケットを探った。次に出てきたのは、きっちりと巻かれた包帯の塊だった。
あまりの準備のよさに、夏樹は彼が最初から手首をかっ捌くつもりでいたことを悟った。
「片手じゃ無理だな。包帯、頼めるか夏樹」
ぼやくようにいう口調は完全にいつものものだったが、夏樹の心臓は不自然に脈打つのをやめなかった。
「替えのガーゼは?」
左手首に乗せたガーゼは、もう血を吸って大半が赤く染まっている。心臓に悪い光景だった。
「替えはない。俺がこのガーゼ落としたら、間髪要れずに包帯巻いてくれ」
了解といった覚えはないのに、莉櫻はガーゼを払い落とした。
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