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車が二台入るだろう広さのガレージは、中央に大きな作業台を置いていた。台には巻物の大きな紙と芸術的なカーブを描く形の定規やメジャーなどが乱雑に置かれている。打ちっ放しのコンクリートの壁際にはトルソーが数体並び、おそらくここは都築の作業スペースなのだろうことは想像できた。そしてそこに一沙が立っていたのだった。
「こんにちは」と先に挨拶をしたのは一沙だった。
「村沢さんも、ここに居るってことは......」とまりもが訊ねた。
「今回は採寸をお願いしたんです。きっと男に採寸されるのは嫌だろうと思って。それと今回のショーではモデルに選ばれてなかったけれど、僕がモデルをお願いしました。折角モデルがいるのに使わないなんて、勿体ないですからね」
コンクリートの壁を伝う階段の上部から、手摺り越しに都築が顔をのぞかせた。見上げると二階にも広いスペースがあり、都築はそこで寝泊まりをしているようだった。
都築は早速、ゆりのサイズを測るよう一沙に頼んだ。
「じゃあ藤堂さんは、こっちに来てくれる?」
そう爽やかな声で手招きされ、ゆりは部屋の隅にあるカーテンで仕切られた場所へと案内された。言われるがままに洋服を脱ぎ、バスト、ウエストはもちろんのこと、背丈や首回り、肘下など事細かにメジャーで採寸されてゆく。その時、ポツリと一沙が呟いた。「藤堂さんって何かスポーツやってるの?」
「どうして?」
「体が絞まってるから。筋肉が綺麗についてる」
一沙はメジャーを首にかけて、背中の締まり具合を確かめた。
「筋肉体質だから、首回りとか腕回りとか結構太いよね」
ゆりは残念そうに俯いた。
「もしかして......武道とか?」
「そうだけど、どうして? わかる?」
「そっか......」とだけ言って、一沙は黙ってしまった。そのあとは黙々と採寸を続け、一通り終わるとメジャーを置いた。そして「じゃあ、これ着て出てきてね」と、一着の洋服を手渡した。
「終わったよ」
透き通るような声がガレージに響いた。打ちっ放しのコンクリートは声がよく反響した。
「ありがと、一沙」
カンカンとスチール製の階段の音が聞こえ、都築が二階から降りてきたことがわかる。しかし、ゆりは試着室から出ることが出来なかった。なぜならば、手渡された洋服が入らなかったのだ。細身のワンピースは背中の中腹辺りからファスナーが上がらなかった。
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