第1章

10/24
前へ
/24ページ
次へ
 車が二台入るだろう広さのガレージは、中央に大きな作業台を置いていた。台には巻物の大きな紙と芸術的なカーブを描く形の定規やメジャーなどが乱雑に置かれている。打ちっ放しのコンクリートの壁際にはトルソーが数体並び、おそらくここは都築の作業スペースなのだろうことは想像できた。そしてそこに一沙が立っていたのだった。 「こんにちは」と先に挨拶をしたのは一沙だった。 「村沢さんも、ここに居るってことは......」とまりもが訊ねた。 「今回は採寸をお願いしたんです。きっと男に採寸されるのは嫌だろうと思って。それと今回のショーではモデルに選ばれてなかったけれど、僕がモデルをお願いしました。折角モデルがいるのに使わないなんて、勿体ないですからね」  コンクリートの壁を伝う階段の上部から、手摺り越しに都築が顔をのぞかせた。見上げると二階にも広いスペースがあり、都築はそこで寝泊まりをしているようだった。  都築は早速、ゆりのサイズを測るよう一沙に頼んだ。 「じゃあ藤堂さんは、こっちに来てくれる?」  そう爽やかな声で手招きされ、ゆりは部屋の隅にあるカーテンで仕切られた場所へと案内された。言われるがままに洋服を脱ぎ、バスト、ウエストはもちろんのこと、背丈や首回り、肘下など事細かにメジャーで採寸されてゆく。その時、ポツリと一沙が呟いた。「藤堂さんって何かスポーツやってるの?」 「どうして?」 「体が絞まってるから。筋肉が綺麗についてる」  一沙はメジャーを首にかけて、背中の締まり具合を確かめた。 「筋肉体質だから、首回りとか腕回りとか結構太いよね」  ゆりは残念そうに俯いた。 「もしかして......武道とか?」 「そうだけど、どうして? わかる?」 「そっか......」とだけ言って、一沙は黙ってしまった。そのあとは黙々と採寸を続け、一通り終わるとメジャーを置いた。そして「じゃあ、これ着て出てきてね」と、一着の洋服を手渡した。 「終わったよ」  透き通るような声がガレージに響いた。打ちっ放しのコンクリートは声がよく反響した。 「ありがと、一沙」  カンカンとスチール製の階段の音が聞こえ、都築が二階から降りてきたことがわかる。しかし、ゆりは試着室から出ることが出来なかった。なぜならば、手渡された洋服が入らなかったのだ。細身のワンピースは背中の中腹辺りからファスナーが上がらなかった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加