第1章

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「どうかしましたか?」  なかなか出ることができないゆりを心配してか、カーテンの向こうから都築の声が聞こえた。 「きっと、あの服が小さいんだと思う」  そう囁くのは一沙だった。 「ああ......そっか。藤堂さん、いいんですそれは一沙のサイズで作ったものだから」  都築は、まるで入らないのは当然と言わんばかりに、悪気もなく言った。一沙サイズの服を着ることに何か意味があるのだろうか。これではまるで恥をかきに来たようなものだ。なんだかとても心の中がモヤモヤと苛立った。こんなこと、早く終わらせてしまおう。  ゆりは勢いよくカーテンを開いた。するとそこに、寝癖頭の都築が待っていた。大きな白いTシャツと緩めのズボンが見るからに部屋着であり、確かに儲かるような服を売っているようには、とても思えなかった。  都築はずり落ちた丸いメガネをクイッと指先で持ち上げ頭をもさもさと掻くと微笑んだ。 「ああ、思った通り。かわいいですね」  こういうことをあっさりと言ってしまうから真っ赤にならざるを得ない。不快な思いをしたはずなのに、とても複雑な気分だった。ゆりが着用したフレンチスリーブのワンピースは大胆な花柄でウエストの辺りからAラインにスカートが広がっていた。「最初、一沙に着てもらおうと思って作ってた服ですが、着てみたら柄に負けて貧相になってしまいました。もしかしたら藤堂さんの方がこういう柄が映えるのかなと思って......」 「本当だ、大人っぽい雰囲気だね」  まりもが都築の後ろから顔を出した。 「たぶん、藤堂さんの雰囲気がそう見せるんだと思うんです」 「へー、なるほどねー」  ゆりの周囲をぐるりと巡り、まりもが何度も頷いた。すると一沙の声が響いてきた。 「ねえ都築くん。私、もう帰ってもいいかな」 「あっ、一沙、どうもありがとう」  パタパタと玄関先に走り寄り話し込む都築と一沙は、雰囲気的になんだかお似合いだなと思えた。例えば一沙のそこに、自分の姿を投影してみたが、どうにも不釣り合いのように思えていた。 「じゃあまた明日ね」  そう言って鋭い視線を向ける一沙の言葉は、なんだか尖っていた。途端に、恐縮してしまう。都築の隣に似合う女の子は、一沙のような可憐な女の子なのだろう。そんなことを薄ぼんやりと考えながらの帰り道、まりもはメイクやヘアのインスピレーションがわいたと意気揚々として話していた。
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