第1章

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 もぐもぐと動く口を見ていると、まるで拷問のようだった。お腹がなるのを必死で耐えて、ジュースを少しずつ飲んだ。それでも「少し痩せた?」と周りに気づいてもらえると嬉しかった。今度のミーティングには、都築が選んだ服ではなく、まりもの服を借りてみよう。女子らしいところを見せたいのだと、ゆりは早速、胸元に伸縮性のあるシャーリングで肩を出す小花柄のトップスと、まるでチューリップの蕾のような真っ赤なコクーンタイプのミニスカートを借りた。  まりもが言った通り、ゆりは都築を男として意識しているのは明らかだった。しかし、都築はゆりの姿を見るなり口をあんぐりと開けて途端に不機嫌な顔になったのだった。数着、仮縫いが出来たというから試着に来たゆりではあったが、都築は試着どころかそれを見せることすらもしなかった。  その日、都築がくれた服はワイドデニムとチェックのシャツだった。もはや、嫌がらせとしかゆりには思えなかった。 「先輩、目が死んでる」  心配そうに佐野が、ゆりに声をかけた。生気のない顔は八月の暑さのせいでもなく、夏休みボケでもない。佐野の言葉にも反応が遅れた。ゆりは道場の隅で背筋を正し、後輩たちの演武を見ていたはずだった。しかし、その姿は誰の目にも凛々しさの欠片も映らなかったのだ。「ごめん、今日は帰るわ」  そう言って立ち上がった途端、目眩がしてよろめいた。  その日は早朝から、既に灼けるような夏の暑さで、風の通らない道場はまるでサウナのようだった。そんな中、食事もろくに摂っていないゆりが倒れるのは、ごく自然のことだった。気がつくと、そこは保健室で目を覚ましたゆりの前には、厳しい顔つきの都築がじっと見ていたのである。 「えっ都築っ!」  慌ててベッドから起き上がろうとするゆりを制止して、都築が静かに言った。 「佐野という人から連絡をもらいました。練習中に倒れて保健室に運んだと」 「あ......今日は、暑かったから、ね......」 「暑さのせいだけでは、ないですよね」  抑揚のない都築の言葉にはトゲがあった。それは体のどこに刺さったのか、探しても見つからない。決して抜き去ることはできないトゲなのだ。
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