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「最近、食事を摂っていないというのは本当ですか?」
「......摂ってるよ」
「僕の目を見て言えますか?」
「言えるよ」
都築の口元から大きなため息が漏れた。すると彼は黙ってすっくと椅子から立ち上がり、背を向けて部屋を出て行った。嘘だということがバレたのだろう。きっと呆れて出て行ってしまったのだ。ただ綺麗になった自分を見てもらいたかっただけなのに。
「ああ、ほんっとバカ」
ベッド越しから見える、日差しに輝く木々を眺め見て、ゆりは呟いた。そして再びベッドへと潜り込み布団にすっぽりと包まると、固く目を閉じた。閉じた瞼に思い浮かぶのは、都築の線の細い背中だった。そしてそれは次第に遠ざかる。そんな光景を何度も、何度も思い描いていた。思い描いては理解されない苦しさにもがいていた。すると、しばらくして声が聞こえた。それは紛れもなく都築の静かな声音だった。
帰ったわけではなかったのだろうかと、ゆりは布団からそっと顔を出した。
「藤堂さんの好きなものが、わからなかったから......」
手にコンビニの袋をぶら下げた都築が申し訳なさそうに立っていた。学内にある購買は夏休みの為に閉店している。おそらく都築は近くのコンビニまで走ったのだろう。額から汗を流していた。そして手にした袋には、おにぎりやパン、デザートやお菓子に至るまで食材が詰まっていた。「どうしたの、これ」
「食べてください」と差し出す都築だったが、ゆりは頭を振りそれを拒んだ。しかし、ここ数日ろくなものを食べていない体は正直で、途端にお腹がぐうと鳴ったのだ。「ほら」と袋を差し出す都築の口元が笑っていた。
「藤堂さんは、そのままでいいんですよ。何も一沙と比べることはないんです。あの人は、モデルをしているのだから細くて当たり前。藤堂さんは運動をしているのだから、食べるものを食べないと筋肉が落ちて貧相になる。僕は健康的なスタイルの藤堂さんに服を作りたいし、好きなんです」
「え? 今......」
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