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「さあ、だから食べてください」
都築は、さらりと重要なことを口にする。それがどれくらいの意味を持つ「好き」なのか、ゆりは判断しかねていた。パッケージをはがし取ったサンドイッチを、都築の手から直接口にした。それは、噛んでも噛んでも、なかなか喉を通っては行かなかった。
開け放たれた窓から差し込む日差しを、薄いカーテンが遮っていた。ベッドの脇にある椅子に座り、一口二口とパンを頬張るゆりを見て、都築の頬は心なしか緩んでいた。
「私ね、聞いてみたのよ都築に」
その日の晩、ゆりの携帯に、まりもからラインが入った。
「聞いてみたって何を?」
「一沙が着ているような可愛い服を、何でゆりに渡さないのか」
「なんか言ってた?」
「ふふふっ」
言葉の後には頬を染めて笑うスタンプが配置されている。こういう時は、だいたい焦らしに焦らすまりもだ。案の定、しばらくは明確な答えを得られぬやりとりが画面を埋めていった。そして、何往復めかの返信には赤面するような内容が書かれてあった。
「あんまり見られたくないんだって」
「ん?」
「だから、露出の多い服装だと視線を集めるでしょう?」
「ダメなの? だって、その方が都築が作る服の宣伝にもなったりって私が言うのも変だけれど」「視線を集めるのは女子だけではないってことよ。ふふん」
「......え、それって」
「他の男の目に触れるのが嫌なんじゃない?」
舞い上がらないはずもない。ゆりはその晩、心臓が高鳴りなかなか寝付けなかった。そして、ふと都築が運営する洋服販売のサイトを見ようと思い立った。しかし、肝心のサイトの名前を知らない。けれど確か、都築が女の名前でデザインをしていると言っていたのを思い出した。
「あー、なんだっけなんだっけ......」
部屋の中をぐるぐると意味もなく往復した。幾度となく、こめかみあたりを拳で小突いた。
「そうだ! 胡蝶!」
ぽちぽちとキーボードを打ち、検索をかけた。すると、真っ白い画面に蝶のロゴが刻印されたシンプルなサイトを見つけた。デザイナーの名前は胡蝶。おそらく都築の服が売られているサイトで間違いはないだろうと思われた。そして、都築がゆりに渡していた洋服とは全く異なる可愛らしい洋服が画面上に並び、それはまりもがよく着ている服と似ていた。ゆりは先日借りた、まりもの洋服を袋から引っ張り出した。
「やっぱり......都築の作った服なんだ」
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