第1章

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 それはまだ春先のことだったという。肌寒さの残る空気を斬り裂くような音がしていた。それは道場の方から聞こえ、都築は不審に思いながらも足を運んだという。鉄でできた重い扉が、少しだけ開いていて、その奇妙な音は中から聞こえていた。都築は興味本位から覗いてみたのだという。 「木刀を手にして、あれは型っていうのかな、剣術のような舞のような居合いをする藤堂さんを見たんだ。袴姿の藤堂さんは、なんだか格好よくて」  都築は控え室で足を止めた。そして、ようやくゆりに向き直って言った。 「僕は、この人に似合う服を作りたいなって、そう思ったんだ」   最初は、その言葉が都築にとっての告白だとは気付くはずもなかった。けれど、俯きはにかむ仕草は、いつか見た教室の都築の姿と重なったのだ。再び背を向け、ちらりとまた視線を合わせる。そんな思わせぶりな仕草をして都築は控え室の扉を開けた。そして途端に表情を変え、眉根を寄せたのだ。  控え室の中で言葉なく呆然と立ち尽くす都築を不審に思い、ゆりが一歩踏み込んだ先には目も当てられない惨状が広がっていたのだった。そこには倒されたトルソー。切り刻まれた洋服や小物の数々が、散乱していたのだ。 「なにこれ......? 一体、どういうこと?」
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