第1章

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「夏休みだからと油断してた。鍵をかけていなかった責任は僕にある」  一歩一歩と重い足を踏み出す都築は、倒れた一台のトルソーを抱き起こした。そのトルソーは見覚えのある白いドレスを着ていた。細かく切り抜かれた繊細な模様が描かれている、紙でできた洋服だ。左ウエストのあたりからパックリと切られ、スカートがダラリと床に落ちている。かろうじて右ウエストの部分が繋がっているが、少し引っ張れば紙であるという素材上、あっさりとスカートがちぎれてしまうだろう。 「このドレスって、非売品のやつよね?」  都築は頷きため息をついた。それは好きな子をイメージして作られたというドレスだったのだ。 「藤堂さんに、ラストで着てもらおうと思って作ったんだけど......」 「私の......ために作ったの?」  心臓が高鳴っていた。こんな時に不謹慎かもしれない。しかし、ゆりの脳裏には好きな人をイメージして作ったというコメントが湧き水のごとく浮かび上がっていたのだ。 「ほら、見て。服の模様は、ユリの花をモチーフにしてるんだ。大柄な花は藤堂さんによく似合う。こんな風に特定の人に服を作るのは初めてなんだけど、作る服全部が、どうしても藤堂さんにしか似合わないんだ。自分でも不思議なんだけど、藤堂さんを思うとイメージが湧いてくる」「あ、あの......私、その......都築のネット販売をしてるっていうサイトを見たのね。で、このドレスがあって......その......」 「藤堂さんをイメージして作った」  都築はトルソーに着せたドレスを愛おしそうに指先でなぞり、さらりと言った。表情が見えないから、それは本気で言っているのか、そうではないのかわからなかった。けれど、栗色の髪から覗く耳が真っ赤になっているのは暑さのせいではないだろう。証拠に、ちらりと視線を合わせた都築はまるで告白された女子のように可愛らしかった。
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