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「なんだか、僕の想いまでもがズタズタにされた気分だ」
「き、き、着るよっ!」
「はい?」
「このドレス、私、着るから。せっかく都築が私のために作ってくれたんだもん。着るよ」
「いや、でもこれじゃあ、いくらなんでも露出が......」
「いいじゃん。この日のためにダイエットしたんだし、私、お腹出てないよ。見てみる?」
「そうじゃなくて、僕が嫌なんです」
「でもね都築。誰もエロい目でなんか見ないと思うよ。作品として見るんじゃないかな」
それに対しての返答はなかった。ただ、都築の顔がふて腐れていた。
「作品としても、これじゃあショーには出せない」
「じゃあ直そう。学祭まで、まだ二週間ある。私も手伝うから」
学校祭のために用意された洋服は全部で十五着。その全てが鋭利なもので切られていた。けれど、都築はかえってそれが良かったと何かを閃いた様子で、その日から再び、自分の作業場へとこもってしまった。都築はこもると外界との接触を一切持たない。そうこうしている内に夏休みは終わり、学校祭は二日後に迫っていた。
ゆり達が開催するファッションショーの会場は外のグラウンドを借りることができた。すでに設営が開始され、この二日間はほぼ貸切となる。「ねえ、洋服ってどんな感じなんだろう。ちゃんと出来てるのかな?」
ランウェイ用のベニヤ板を運びながら、まりもが言った。洋服が全て切り刻まれていたという事実は都築とゆりの二人しか知らなかった。ことを荒立てることはないと都築が伏せているようにと言ったのだ。
「たぶん......もうすぐ出来ると思うのだけど」
確信はなかった。あの繊細な模様からやり直すとなると、相当の時間を要するだろう。作っているのは都築であり、手伝うと言いながら、何もできないことが腹立たしかった。そんな時、突然ゆりの携帯にラインが入った。
「あ、都築からだっ」
「えっえっ、何だって? 出来た?」
「うん、控え室に搬入したって。今回はちゃんと鍵もかけたからって書いてる」
「鍵?」
惚けたまりもの顔を見て「何でもないっ」とゆりは携帯を握りしめた。とは言っても、どうにも気がかりで仕方がなかった。なぜ、犯人は洋服を搬入した日を知っていたのか。どうにも腑に落ちず、ゆりは設営の仕事は任せて控え室へと向かった。何となく、嫌な予感がしたのだ。
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