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「ゆりっ、ゆりってば!」
連日の朝練で睡眠不足がたたってか、そのまま眠ってしまったゆりを起こしたのは、まりもの囁く声だった。昼休みから寝通し、時はすでに五時限目のホームルームだった。
「ご指名よ」
指名とは何のことか、眉根を寄せるゆりに、まりもが隣の席からニヤけた顔を向けていた。まりもだけではない、教室の教壇席には小南が立ち、彼もまた不敵な笑みを向けているのだ。前方のホワイトボードに書かれた議題には学校祭の催事に関してと書かれている。生徒からピックアップした催事が五件ほど並び、その一つに大きく丸がつけられていた。
「ファッションショー?」
放課後の教室にゆりの頓狂な声が響いた。十七年生きてきて初めてと言っても過言ではないほどにその声は狼狽していた。
「小南がね、ゆりをモデルの一人に指名したの」
「なんでっ?」
「さあ?」とまりもは肩をすくめた。
「そもそも、小南がなんで進行してたの?」
「あまりにも学校に来ないから担任が学校祭の準備委員に勝手にしたのよ。少しでも行事に関わらせたかったんじゃないかな。で、今日がその学校祭の話し合い初日だったってわけ」
「ああ、だからあいつ珍しく学校に来てたのか......っていうか、意外に真面目?」
「そゆことー」
ゆりの学校では夏休み明けに学校祭が開かれる。各学年各クラスが様々な催事を行う主要イベントの一つだ。夏休みを挟むこともあり、大規模な催事を発表するクラスも少なくない。受験にも影響の少ない高校二年のこの年が、一番力を入れる年でもあった。それゆえ四月から既に準備に向け動き出すのがほとんどだ。
「ショーを提案したのは小南なんだよね。なんでだろう」
まりもが頭をひねった。
「そんなのわかりきってるじゃない。メンバーを見れば一目瞭然でしょう?」
ゆりはホワイトボードに書かれたメンバーをコンコンと指先で小突いた。そこには、洋服の製作者、モデル、舞台設営など事細かに人員が配置されていた。
「ほら、製作者の一人に都築の名前が入ってる。このイベントで服を作れる人間かどうか見分けがつくでしょう? それに違ったとしても公衆の面前で恥をかかせるには絶好の機会よ。モデルに私の名を挙げたのも、単なるあいつの嫌がらせ。実は、この間ちょっと一悶着あったんだよね。ねぇ、なんで断らなかったの? 下手したら大舞台でブーイングの嵐よ」
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