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あれは一体、どういう意味だったのか。ゆりはベッドに横になり夕日に染まる放課後の教室で、都築が言った言葉を反芻していた。しかし考えたところで明確な答えは出てこない。口に出るのは低い呻き声だけだった。その時、まりもからラインが届いた。
「明日の土曜日、空いてる?」
まりもが急に用事を入れてくるなんて珍しい。いつもは週初めに打診をし、今度の休みに行動するというのがパターンだ。
確か土曜は朝練があったはずだが、午後からは空いている。ゆりはそうまりもに返信した。
「よかった。じゃあ二時にK町の駅5番出口で待ち合わせね」
「何かあるの?」
「うん、都築がね見せたいものがあるから、ゆりも連れてきてって言ってた」
思わず手元から滑り落ちた携帯は自分の胸元へと当たった。
「え、都築の番号知ってるの?」
「うん、今日帰り際に教えてくれた。これからグループで製作するのに必要だろうからって。あれ? ゆりは聞いてない?」
聞いていなかった。なんだか少しだけ疎外された気がして、携帯を落とした胸元あたりが痛んだ。見つめるはにかんだ眼差しや夕刻の意味深な言葉は、きっと自分の思い過ごしなのだと痛んだ胸に言い聞かせ、ゆりは枕に顔を埋ませた。 もやもやとした不快感が付きまとい、その晩は、なかなか寝付くことができなかった。
「先輩っ!」
「えっ何?」
「どうしたんですか、ぼんやりして先輩らしくないですッ」
小動物のようなつぶらな瞳がゆりを上目遣いで見ていた。朝の道場はピンと張り詰めた空気が漂い、数人の生徒たちが練習用の木刀片手に手合わせをしている。一瞬の隙も許されないこの場で一体何をぼんやりと考えていたのか。ゆりは「ごめん」と一言謝ると練習用の木刀を構えた。背筋に一本スッとした何かが入り込む。静かに呼吸を整え目の前の相手に呼吸を合わせる。相手のふとした呼吸の乱れを見逃さず、ゆりは下から振り上げた木刀で相手の一振りを交わし、すかさず頭上から相手の脇腹へと当て込む寸前で振りを止めた。
木刀がカランと床に落ちた。
部室横の水飲み場で、ゆりは顔を洗った。高い気温は水の温度を幾分か上げているはずなのに、稽古で上昇した体温を下げるには十分すぎるほどに爽快だった。後輩である佐野はタイミングよくゆりにタオルを渡した。手にしたタオルは、どこか甘い香りがした。
「何を考えてたんですか?」
「何が?」
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