第1章

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「練習中に、ぼんやりするなんて珍しいじゃないですか」 「うーん......草食系男子に、ついてかな」  都築のことを考えると、途端に言葉が曇った。 「草食系男子?」  呆れたような目つきで、佐野は乾いた笑いを発した。そういえばこの男もまた、可愛らしい顔をしている。長めの前髪から覗くつぶらな瞳と、程よい膨らみを持つ頬が、そこら辺の女子よりも女子らしい。道衣を着ていなければ、佐野もまた草食系と言われているのかもしれない。ふと過去の公開練習で、佐野が武道の型を決めるたびに見学に来た女子から歓声が上がっていたのを思い出していた。 「ねぇ佐野。ちょっと私を見つめてみて。そしてフッと視線を外してみてくれない?」 「なんでですかっ」  照れているのか、頬を赤くして拒否する佐野はなんだか可愛いなと思った。そう思っただけで、特にゆりの気持ちに変動はなかった。 「......ま、いいや。お疲れ」 「え、先輩? しなくていいんですか?」  ゆりは振り返りもせず手をひらひらと翳すと部室へと入って行った。  今日は日差しが強かった。湿度のある空気が体にまとわりついて気持ち悪かった。待ち合わせたK町駅の5番出口、日差しを避けるように改札出口の横手へと逃げた。駅員の事務所から漏れるエアコンの冷たい空気が、ほんの少しだけ気持ちを和らげた。  待ち合わせ時刻の二時を十分ほど過ぎた頃、まりもが「ごめん、待った」と駅構内から駆けて来た。 「ううん、そんなに待ってないから大丈夫」 「え、ゆり、その格好で大丈夫?」 「何が?」  合流するや否や、まりもはゆりの全身を見つめ絶句した。ビッグサイズのストライプシャツとショートパンツ。足元にはビーチサンダルという出で立ちだ。これがゆりのお決まりのスタイルである。 「言わなかった? これから都築の家に行くって」 「それは聞いたけれど、この格好じゃダメ?」  ゆりは首を傾げたが、言われてみれば、まりもはウエストにリボンの付いた、ひらりとした柔らかそうなスカートと涼しそうな袖のカットソーを着ていた。いつも可愛らしい出で立ちだが、今日の格好はフェミニンさに磨きがかかったようだった。 「ねぇまりも。もしかして、都築のこと......意識してる?」
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