第1章

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 恐る恐るゆりは聞いてみた。仮にまりもが、都築のことを好きだというならば、この気持ちにセーブをかけることは可能だ。今ならば、まだ間に合う。すると、まりもは見透かしたようにゆりを見上げて言った。 「ちょっと、ゆり。見くびらないでくれる。何年あんたの親友やってると思ってるの。意識してるのはゆりの方じゃない。だから聞いたのよ。その格好で大丈夫なのかって」 「ああ......そっか。やっぱり、男の子はかわいい格好の方が好きだよねぇ......」  肩を落とすゆりに、まりもは鼻をつんっと上げて「バカッ」と一言だけ言った。ゆりは心のどこかで安堵していた。それはつまり、まりもが言った通り都築のことを意識しているからなのかもしれない。  学校祭用のデザインが出来上がったらしいと聞いたのは、都築の家へと向かう道すがらだった。 「もう出来たの?」 「らしいよ。だから今日は採寸だって」 「採寸って......サイズ測るんだよ、ね」  あからさまに嫌な顔を見せるゆりに、まりもはふふと笑う。 「そんな嫌な顔しなくてもいいじゃない。ゆりは背も高いし、十分スタイルいいんだから」 「いや、でもぉ......」 「都築にサイズを知られるのが、嫌とか?」 ゆりは足を止めた。そういうわけじゃないけれど、と言いかけた。けれど、きっとそういうわけなのだ。それは都築に限らず、男性にスリーサイズを知られるというのは、いささかしんどい。 「それって、都築を男として見てるってことじゃないの?」  まりもが覗き込んでゆりの顔を、じっと見ていた。そして何かを悟ったように笑うと「着いたよ」と門扉の横にあるインターホンを押した。門扉は複雑な紋様を象った鉄製の柵で、緩やかな飛び石の向こうには家が見えた。家は生成りの壁に赤い屋根の可愛らしい家だった。 「そこのガレージに入ってきてもらってもいいですか?」  名前を名乗ると、インターホンから都築の声が聞こえてきた。  見ると門扉の横にシャッターで閉ざされたガレージがあった。シャッター横には小さな扉があり、中に入ると途端に清涼感が体を包み込んだ。それは早朝の学校と同じ感覚だった。
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