1 大旦那様

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ぐいっ。 「ぐうっ」 私は露になった老人の両膝の裏を、親指で強く押した。 「あ、ちょっと強かったですかね?」 「ん、いや、いい。丁度いいくらいだ。……くっ」 私はそのまま、つづけて二度三度と指圧をつづける。 これは、私が初日にここへ来た時に、いいところを見せようとして、張り切ってやってしまったマッサージだ。 アサダさんをはじめ、見ていた他の人たちは真っ青になっていたものだが、当の藤城老人には、この、かなり強めのマッサージがいたく気に入られてしまった。 以来アサダさんは、しめたと言わんばかりに、気難しい老人の相手に、私を当てがっている。 しかし、もし万が一、こんな場面(シーン)をアキトさんが見たらなんて言うだろう。 いくら私が言い訳しても、聞いてくれないんだろうなあ。 ひょっとして、かつてないようなもの凄いオシオキされちゃうかも...きゃーうっ♡ グギッ。 「はうあっ」 強く曲げられた関節が奏でる音とともに、下にいた老人が、大きな叫び声をあげた。 …あ、やべ。 ピクピクと顔を引き攣らせている老人に、私は気まずく笑いかける。 「もしかして…ちょっと...強くやりすぎちゃいました?」 「へ、平気じゃわいっ。 さっさと手を動かさんかっ」 いかんいかん、集中、集中っと。 私は雑念を振り払うと、再び、老人の脚に精神を集中させた。 しかしよかった。 藤城翁がムダに意地っ張りで助かった。 ...普通だったら即刻クビだったな。
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