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ぐいっ。
「ぐうっ」
私は露になった老人の両膝の裏を、親指で強く押した。
「あ、ちょっと強かったですかね?」
「ん、いや、いい。丁度いいくらいだ。……くっ」
私はそのまま、つづけて二度三度と指圧をつづける。
これは、私が初日にここへ来た時に、いいところを見せようとして、張り切ってやってしまったマッサージだ。
アサダさんをはじめ、見ていた他の人たちは真っ青になっていたものだが、当の藤城老人には、この、かなり強めのマッサージがいたく気に入られてしまった。
以来アサダさんは、しめたと言わんばかりに、気難しい老人の相手に、私を当てがっている。
しかし、もし万が一、こんな場面をアキトさんが見たらなんて言うだろう。
いくら私が言い訳しても、聞いてくれないんだろうなあ。
ひょっとして、かつてないようなもの凄いオシオキされちゃうかも...きゃーうっ♡
グギッ。
「はうあっ」
強く曲げられた関節が奏でる音とともに、下にいた老人が、大きな叫び声をあげた。
…あ、やべ。
ピクピクと顔を引き攣らせている老人に、私は気まずく笑いかける。
「もしかして…ちょっと...強くやりすぎちゃいました?」
「へ、平気じゃわいっ。
さっさと手を動かさんかっ」
いかんいかん、集中、集中っと。
私は雑念を振り払うと、再び、老人の脚に精神を集中させた。
しかしよかった。
藤城翁がムダに意地っ張りで助かった。
...普通だったら即刻クビだったな。
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