1 大旦那様

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「ぷはあっ。 全く…お主くらいじゃ。ワシにまあーったく、遠慮せんのは」 マッサージを終えた大旦那様は、私が注いだ信濃の養命水を飲み干すと、息を吐き出すように言った。 (結局飲むんかい!) 私はその横に控え、疲れた腕をぐーっと伸ばしている。 「...最近な、足が痺れてどうにもいかん。これをやると、少しは血行がマシになる」 「あのね、それ、ちゃんとお医者さんに診てもらった方がいいですよぉ。何か病気の予兆だったりしますからね。ウチの田舎のおばあちゃんも3年前…」 「フン、ワシはそんなにヤワじゃないわっ。第一、そんな暇なんかないわい。いいか?ワシを誰だと思っとる。ワシの一言で、内閣総理大臣でも飛んでくるんじゃぞ?」 「ハイハイ、分かっておりますって(知らんけど)。でもね、古今東西、どんなに偉い王様だって病には勝てないんです。始皇帝しかり、ルイ十三世しかり。 医者嫌いもほどほどにしとかないと、今に、大変なことになりますよ〜?」 「はっ、医者など。 しかし、皮肉なものだ。ワシにそんな生意気を叩くのも、ワシのことを、そんな、ただのジジイみたいに心配するのもお主くらいのもんじゃ。 ...のうお主、なかなか面白い女じゃ。ワシの息子の嫁にならんか? 藤城グループの跡継じゃ。 メイドなぞではした金を稼がんでも、世界一の贅沢ができるぞ」 「ええっ!」 「 それに…昔のワシにそっくりで、なかなかの色男じゃ」 …………。 一瞬、色めきたった心は早々に萎えた。 ヒヒジジイの昔の姿など、マントヒヒに決まっている。 「えっへぇ、そりゃあ残念。 私ってば既婚者なんで〜」 「そうか、それは残念じゃ...」 老人は、しゅんとして項垂れた。
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