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「ぷはあっ。
全く…お主くらいじゃ。ワシにまあーったく、遠慮せんのは」
マッサージを終えた大旦那様は、私が注いだ信濃の養命水を飲み干すと、息を吐き出すように言った。
(結局飲むんかい!)
私はその横に控え、疲れた腕をぐーっと伸ばしている。
「...最近な、足が痺れてどうにもいかん。これをやると、少しは血行がマシになる」
「あのね、それ、ちゃんとお医者さんに診てもらった方がいいですよぉ。何か病気の予兆だったりしますからね。ウチの田舎のおばあちゃんも3年前…」
「フン、ワシはそんなにヤワじゃないわっ。第一、そんな暇なんかないわい。いいか?ワシを誰だと思っとる。ワシの一言で、内閣総理大臣でも飛んでくるんじゃぞ?」
「ハイハイ、分かっておりますって(知らんけど)。でもね、古今東西、どんなに偉い王様だって病には勝てないんです。始皇帝しかり、ルイ十三世しかり。
医者嫌いもほどほどにしとかないと、今に、大変なことになりますよ〜?」
「はっ、医者など。
しかし、皮肉なものだ。ワシにそんな生意気を叩くのも、ワシのことを、そんな、ただのジジイみたいに心配するのもお主くらいのもんじゃ。
...のうお主、なかなか面白い女じゃ。ワシの息子の嫁にならんか?
藤城グループの跡継じゃ。
メイドなぞではした金を稼がんでも、世界一の贅沢ができるぞ」
「ええっ!」
「 それに…昔のワシにそっくりで、なかなかの色男じゃ」
…………。
一瞬、色めきたった心は早々に萎えた。
ヒヒジジイの昔の姿など、マントヒヒに決まっている。
「えっへぇ、そりゃあ残念。
私ってば既婚者なんで〜」
「そうか、それは残念じゃ...」
老人は、しゅんとして項垂れた。
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