青春の在り処

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 高校に入学して約二ヶ月が経過した今日までに、翼が成瀬から今日のように声をかけられた回数は、たぶん両手では数えきれないほどだ。そのすべてを翼は断っている。最初の頃は話を聞いていたけれど、最近は今日のようにすぐに断ることも増えていた。いい加減彼は翼を誘うのを止めるという選択肢に気付くべきなのだ。  相手の誘いを断るというのは、それだけで少し胸が痛む。成瀬からすればみんなに声をかけることがいいこと、当たり前になっているのだろうけれど、その考えが当たり前ではないことを早く知った方がいい。  廊下の窓からはグラウンドで駆け回る運動部の姿が見えた。大きな掛け声が、開け放たれた窓から聞こえてくる。  六月の末ともなれば、すでに三年生が引退して新たなスタートを切った部活もあるだろうし、目前に迫った夏の大会へ向けて気合を入れている部活もあるのだろう。遠くに見える彼らの姿は小さく、表情なんてわからないけれど、きっと誰もが真剣に取り組んでいるのだろうと思う。  そういう姿を見ると、自然と青春という言葉が頭の中に浮かぶ。  翼は青春という言葉の意味を、正しく知っているわけじゃない。ただ何かその人の好きなことに、情熱をもってのめり込むことなのだと思っている。  例えばグラウンドを駆ける彼らのように、部活に汗を流すことが青春という人もいる。  例えば成瀬のように、友人たちと多くの時間を過ごすことが青春という人もいる。     
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