15話 監督

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野沢監督の『乱舞』の台本をいただいた。 後ろに私への気持ちが書いてあった。 『乱舞の美月へ いつかお前がこれを読む時があるなら、きっと俺がお前にプロポーズする時か死んだ時だ。 お前ほど俺をのめり込ませてくれた女優、美月という人間はいない。 お前なら理解できるだろうか? 俺が監督としてでなく、人生の先輩としてでなく、1人の男としてお前を支えていきたいと願っていた事を。 お前が望むなら監督として生きていこう。 人生の先輩として引っ張っていこう。 それが俺という人間の美月への愛し方だ。 乱舞の美月は乱れて舞った。綺麗だと思う。 お前の舞う姿は俺を魅了した。 俺は演劇において演劇にのめり込ませてくれたお前を愛しく思う。 男として、お前を愛しく思う。 いつも思う。俺はお前が俺に対して願う姿で有り続けたい。 男として接する事ができないのは、俺が男としては未熟者だからだ。 だが、気持ちというのは不思議なもので自分がいくら理性で抑えても抑えきれないもの。 願わくば、この台本が、プロポーズの時にお前の手元に届くことを。 乱れて舞う美月を愛した1人の男より。』 監督…監督…監督、言ってよ。 それ、言ってよ。 ふってあげる。居なくならないでよ。 まだ、私、何も言ってない。居ないんじゃ言えない。 自分の言いたい事だけ言って居なくならないで。 私、強くない。監督が居ないの受けとめらんない。 まだ見てて。まだ冷たくならないで。 体温がないよ。 やめて。嘘つき。すがっていいって言ったじゃんか。 寂しいならすがっていいって言ったじゃんか。 どうやってすがっていいの? 『悲しいなら泣く』しかできないじゃんか。
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