un―アン―

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「真琴さまと会うのは十二年ぶりくらいでしょうか? あの時は坊ちゃんのために……」 「マコちゃん、はやく玄関閉めないと虫はいってきちゃうわよ~?」  言いかけた杉山さんの言葉は、いつの間にかちゃっかりとリビングに戻っていたらしい姉の声に遮られてしまった。てか、虫って……。この非日常な一連の状況でも普段通りの姉の声に、どうやら自分の想像以上に肩に力が入っていた私は「かなわないなぁ~」と苦笑をしながら脱力してしまった。 「参りましょうか。  そういえばこの花なんですが……」 「あ……。とりあえず預かるので一旦、ここに置いといてもらえますか?」 「ありがとうございます。それではお邪魔いたします」  私の苦笑にすら礼儀正しく微笑みを返してくれた杉山さんは、抱えている花束に目をやると言いにくそうに尋ねてきた。もらう訳にもいかないが放置する訳にもいかない(なにせ玄関を圧迫しまくっている。いま誰かが尋ねてきたら何事かと驚愕されてしまう)ので、預かるという選択をして、靴棚の上を指し示す。花束を置いてスリッパを履いた杉山さんを先にリビングへ行くように促してから施錠をした。
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