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それはそれは素晴らしい発音の……おそらくフランス語? で絶望の声をあげたその男は、とうとう声だけではなく私の存在までも無視しだしたのか、間に私がいるのも気にせずに姉の肩をつかんで揺すりながらまるで子犬のような潤んだ瞳で縋るような沈痛な声を発した。
「本当に?ホントのホントのホントのホントーに?!
その男は君を幸せにできるのかい?! 」
「えぇ、本当よ。ホントのホントのホントーに。
幸せにしてもらうというか……二人で幸せを作っていきたいの」
姉は己の身体を力いっぱい揺さぶっている男の手をとり手の平にのせて包み込むとまるで幼稚園児か小学生にでも言い聞かせるようにポンポンと撫でると、ニコニコと、でも少しの照れと沢山の幸せをにじませた声で肯定の言葉を発した。
「でも……!」
アッサリとプロポーズを断られたストーカー男が、姉の幸せ宣言ともいうような『ご馳走さまです』な言葉を聞いて、それでもなおあきらめ切れないのか縋るように姉に言い募ろうとあげた切実な声は母の呑気な声でかき消された。
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