un―アン―

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「あんた達なにしてるの~? お客様なら中に……。  あらっ。あらあらあら、もしかして杉山(スギヤマ)さん? 杉山さんよねぇ~。 相変わらず眼鏡がよくお似合いね~。皆さんはお変わりなくお元気かしら?  あら、てことは、やだわ~。琉(ルイ)くん? ずいぶんとまぁ本当に格好よくなっちゃって!!」  エプロンで両手をふきながら訝しそうにやってきた母は、いつの間にかドアノブから手を離していた姉に代わってしっかりとドアを固定していたロマンスグレー男さんをみて、目を見開いたかと思えば懐かしげに呼びかけた。 そして『杉山さん?』と疑問符をつけて呼びかけておきながらも、相手の返事も待たずに勝手に杉山さんだと肯定し、マシンガントークを繰り広げはじめた。 そうかと思ったらまたもやロマンスグレー男さん改め杉山さん(仮)の返事もきかずに今度はストーカー男に向かって、街中のおばさん達の会話でよく見られる『あらあら』『やだわ~』とセットの手振り、通称おばさん振りをしながら呼びかける。 「ボンソワール、マダム。お褒めにあずかり光栄です」 「ご無沙汰しております、百合子(ユリコ)さん」  母のマシンガントークの間に落ち着いたのかあっけにとられたのか、落ち着いたストーカー男は姉の肩から手を離すと取り乱していた自分を恥じるかのように頬を軽く染めながらもフランス語で『こんばんは』と挨拶をした。そしてそれに続くように声までロマンスグレーな杉山さん(どうやら杉山さんで間違いないらしい)が洗練された動きでお辞儀をした。旧知の者にむけるような親しみのこもった笑み付きで。  ちなみに私は、今がチャンスと母に振り向く姉と勘違い男の間を抜け出した。また揺さぶられたらたまったもんじゃない。 「はい、旦那様も皆も元気でございます。琉さまもこのとおりご丈夫になられ、お健やかにお過ごしでございます。  善治郎(ゼンジロウ)さまの七回忌以来でございますが、百合子さまも相変わらずお美しいですね。」 「あら、お世辞でも杉山さんに言われると嬉しいわ~。恵一(ケイイチ)くんは相変わらず忙しそうね~。  結婚式は……やっぱり難しそう? そうなると次に会えるのは、十三回忌かしらね~」 「すとーーーーーーっぷ! まず状況教えて! なに!? この人達お母さんの知り合い??」
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