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お婆ちゃんが蚊帳の中で眠ろうとする僕へ、この時期になると決まってとある話をする。
この地方に古くから伝わっているという『なりかわり様』のお話だ。
「なりかわり様には関わってはいけないよ?
なりかわり様はね?
夏の夜に現れて子供を拐っていくんだよ。
そうして、お前の帰るところがなくなってしまうからね?」
いつも決まってその話を聞いていた僕は、なりかわり様の事を子供をしつけるための作り話なのではないかと思っていた。
「どうして?」
「それはね、なりかわり様がお前になりかわってしまうからだよ。」
なりかわり様は夏の夜に現れて、眠る子供に話しかけて、子供と入れ代わる。
その対策として蚊帳の中に子供を寝かせているのだそうだ。
蚊帳の中になりかわり様は入ってこれないらしく、僕が蚊帳の中で横になっているのはそういう理由も有っての事だった。
子供騙しのような話だったせいもあってか、僕は興味を示さずにそのまま眠ってしまった。
その夜の事だった。
眠っていると、涼しげな風が僕の顔を撫でた。
不思議と目が覚めて、目を開くと蚊帳の外に月明かりに照らされる人の形をした何かを見付けた。
ぼんやりとした輪郭が浮かび上がり、蚊帳の外から手招きするように揺らめいていた。
僕は寝惚けていたせいも有ってか、それがなんなのかはっきりとしないまま招かれるように蚊帳の外へ出たのだった。
すると、輪郭がゆっくりと僕の姿になり、僕はお婆ちゃんの話が頭の中に蘇っていった。
鮮明に思い出したときは既に遅かった。
意識が遠くなっていき、蚊帳の中で眠る僕と同じ姿をしたなりかわり様を最後に見たのだった。
朝となり、眠っている僕は目が覚めた。
そうして、今までの事を思い出す。
ようやく体を手に入れた。
自分がなりかわり様に体を奪われてから、自分はなりかわり様へとなりかわっていた。
なりかわり様とは、なりかわり様に体を奪われた子供が次のなりかわり様になる。
この地方の子供はみんなそうやってなりかわって来た。
前の代も、その前の代の子供も例外なく。
お婆ちゃんが歩いて近付いてくる。
いいや、彼女はそんな存在ではないのかもしれない。
彼女もそのなりかわり様だったのかもしれないのだから……。
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