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準備体操が終わると、講師が「集合!」と片手を上げて、号令をかけた。
「これから、2人ペアになってもらって、こいつでキャッチボールをしてもらいます」
右手の人差し指の上で、クルクルと器用にバレーボールを回していた。
「まずは、普通にキャッチボール、次に体育座りで、それから寝そべって、最後に背中合わせに立ってのキャッチボール。 それぞれ50回ずつな。 それじゃ、ペアになって!」
「板垣さん、私とペアになって下さい!」
「次、私と!」
「身長差考えてペアを組め! 板垣、またオレと組むか?」
「いえ……今日は彼と組みます」
と、板垣さん…?は、オレを指差した。
え?……何でオレ……?
ていうか、今、身長差考えてペアを組めって、言われたばっかりでしょ?
「先生! オレ、先生と組みます」
*****
「……会って直ぐ、葵さんに、気に入られたんだな…」
穏やかな表情でオレを見つめてる。
「そうだった…の…?」
実際オレの事、どう思ってくれてたのかな…。
あれ以来、会ってないけど……上手く話せないまま今日まできちゃったな。
「葵さんとも何かあったのか?」
オレの様子を見ていた紫津木が、顔を覗き込んできた。
「うん……」
*****
体育が終わって、オレはある事実を突きつけられた……。
着替えの服を忘れた!
朝は、間に合わせることしか考えてなかったから、ジャージで来ちゃったけど……。
どうしよう。 まだ受けなきゃいけない講義があるから、帰る訳にはいかないし、汗臭いジャージのままでいるのは、耐えられない。
何やってるんだ……オレ。
「どうした?」
更衣室に居るのに、なかなか着替えようとしないオレに、板垣さんが声をかけてきた。
「着替え…忘れた」
と、正直に答えた。
「え?マジで? 何、ジャージで来たの?」
力無く、頷くオレ。
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