5.あの日

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準備体操が終わると、講師が「集合!」と片手を上げて、号令をかけた。 「これから、2人ペアになってもらって、こいつでキャッチボールをしてもらいます」   右手の人差し指の上で、クルクルと器用にバレーボールを回していた。 「まずは、普通にキャッチボール、次に体育座りで、それから寝そべって、最後に背中合わせに立ってのキャッチボール。 それぞれ50回ずつな。 それじゃ、ペアになって!」 「板垣さん、私とペアになって下さい!」 「次、私と!」 「身長差考えてペアを組め! 板垣、またオレと組むか?」 「いえ……今日は彼と組みます」 と、板垣さん…?は、オレを指差した。 え?……何でオレ……? ていうか、今、身長差考えてペアを組めって、言われたばっかりでしょ? 「先生! オレ、先生と組みます」 ***** 「……会って直ぐ、葵さんに、気に入られたんだな…」 穏やかな表情でオレを見つめてる。 「そうだった…の…?」 実際オレの事、どう思ってくれてたのかな…。    あれ以来、会ってないけど……上手く話せないまま今日まできちゃったな。 「葵さんとも何かあったのか?」 オレの様子を見ていた紫津木が、顔を覗き込んできた。 「うん……」 ***** 体育が終わって、オレはある事実を突きつけられた……。 着替えの服を忘れた!   朝は、間に合わせることしか考えてなかったから、ジャージで来ちゃったけど……。 どうしよう。 まだ受けなきゃいけない講義があるから、帰る訳にはいかないし、汗臭いジャージのままでいるのは、耐えられない。 何やってるんだ……オレ。 「どうした?」   更衣室に居るのに、なかなか着替えようとしないオレに、板垣さんが声をかけてきた。 「着替え…忘れた」 と、正直に答えた。 「え?マジで? 何、ジャージで来たの?」 力無く、頷くオレ。
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