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 山越えのバスで車酔いに苦しむこと一時間、私達は目的地についた。  私は河東奏、一応、職業は漫画家ということになっている女だ。  理由あって長めの休暇が確保できた私は、友人の山奈涼香と共に、埼玉県のある村にやってきた。  車酔いで呻く私に荷物を押しつけながら涼香が言う。 「着いたわよ。打ち切り漫画家」 「打ち切りじゃねぇ。雑誌が廃刊しただけって言ってるでしょ」 「最悪じゃないのソレ。これからどうやって生活するの?」  言うな。深く考えると全身震えるんだ……。 「……それを考えるための旅行よ。あんただって彼氏とまた別れたんでしょ」 「今度はストーカーと化して引っ越しを余儀なくされなかったらから穏便よ。警察呼ばなかったし」 「相変わらず凄い世界に生きてるわね……」  乗り物酔いとは無縁らしい涼香は私とは対照的な軽い足取りでバスをおりていく。  胸の谷間やら太ももやらが眩しいスタイルの良い23歳。  女同士の旅行で『プチ白川郷』と呼ばれるノスタルジーが売りの観光地(もちろん田舎だ)に相応しくない露出度高めの出で立ち。「蚊の栄養分になりにきました」と言えば多少は説得力があるだろうか。
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