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入学式
正門から校庭までまっすぐ伸びる道路は100mもあった。
その道路の両側、レンガ敷きの歩道に植えられた桜並木が新入生を出迎えていた。
私立瑛旺(えいおう)学園高等学校。
弘平が今日から3年間通うことになる高校の名前だ。
近所に住む弘平は、小さいときからこの桜を見てきたが、自分が通う段になるとまた違う感慨を覚えた。
弘平が桜並木の間から校庭にふと目をやると、こちらに背を向け仁王立ちしている人が見えた。
その人の向こう側には、人より大きなオブジェが幾つか見える。
弘平は、新入生の流れから外れ、その人に近づいてみた。
身長180cm位ありそうだ。弘平より10cmは高い。
腕組みをしていて仁王立ちしている姿から体育の先生かと弘平は勘違いしたが、男は弘平と同じブレザーの制服を着ていた。
「お、おはようございます。」
弘平が恐る恐る声を掛けると、男はちらっと弘平を見ただけで直ぐにオブジェに視線を戻した。
「ああ、おはよう。」
「こんなに大きいオブジェがある学校って珍しいですね。」
「ああ」
「コンクリートそのままのところと、黒塗りとで、塗り分けてるのも面白いですね。」
「ああ」
何の記念のオブジェか尋ねようと思ったが、弘平はこれ以上邪魔をしない方がいいと思い、そのまま黙ってオブジェを見ていた。
5基のオブジェは様々な形をしていた。
一基は高さ2m直径3mくらいの円柱。
一基は横に倒れたひょうたん。
一基は押しピンの針を上に向けたような形で、ピンの頭が直径2mくらい。
一基は高さ2m直径2mくらいの円錐。
一基は、直径1mくらいの球の上に、高さ1mくらいのラッパの先端が上向きで付いていた。
オブジェはそれぞれ一部が黒く塗られていた。
弘平は、しばらくオブジェと腕組みしている男を眺めていた。
気がつくと入学式の時間も近づいていた。「失礼します。」といって慌ててその場を去った。
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