ひきこ

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放課後の教室。 楽しそうな笑い声に反して、その中心にいる妃貴子(ひきこ)の眼は暗かった。 残虐性を帯びた笑いだと、妃貴子は思う。 耳を塞ごうにも、両手を掴まれていてはそれもできない。 学校は檻だと。残酷な檻だと妃貴子は思う。 誰かが妃貴子の髪を掴んだ。 クラスで最近流行っている捕虜ゲーム 捕虜を、処刑する真似事遊び 誰が行いだしたか、知らず知らずに蔓延した遊び 勿論、捕虜は妃貴子であり、引きずられ生きている今を謝罪したら終わる。実際に処刑されることはないが、妃貴子にとって実際に殺されたも同然だった 引きずられる間、皮膚が焼けていく。熱さと痛み 制服は破れほこりまみれだ それでも、妃貴子は涙ひとつ流さない 時間が過ぎるまで耐え、誰もいなくなってから帰宅する それが日常だった 火傷とすり傷だらけの身体で、帰宅し服を脱ぐ カラン…… 床に落ちた付爪は、誰のかはわからない だが、引きずっていたうちの誰かだ 妃貴子は拾い上げてまじまじとそれを見つめる 藁人形でもあれば その思いが、膨らむ いっそ人形をあいつらに見立てるのはどうだろう? ぬいぐるみをつかみ、爪をさす。さして、押し込む 中に入れて叩きつける べしゃり 人形にしては、リアルな音がした それが、小気味良くて足で踏みつけ、紐を巻き付けて引きずる 壊れるまで引きずり回した夜は、いつになくよく眠れた
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