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「あいつらも、道に迷って、タダシに道を教えてもらったのに全然感謝の気持ちとかそういうの、ないのかねぇ」ヒロくんが唇を曲げる。「とはいえ、俺が文句を言っても通じないから、やっぱりお前がこう、自己主張しないと」
「別に本当にどうでもいいから」
ヒロくんはフー、と鼻息を出して、それが溜息になる。
「変わんないな、お前」
変わらない僕は悲しくないけれど、変わらない僕を悲しんでいるヒロくんを見ているのは悲しい。僕が辛いのはそこだけだ。
しかし学校に行くと話の中心にいるのは木下だ。そしてゲームの講釈を垂れる。指さばきとかダンジョンの歩き方とか方向感覚の掴み方とか、そういう技術論が語れるはずもなくて、ただ友達と一緒に冒険することがいかに楽しいことか、それだけを話す。ずっと同じことを話しているのに、まるで無限の話題を持っているかのように延々と話している。炎や雷の魔法よりずっと不思議な魔法だ。
そして、いかに楽しいか、のついでに、いかに楽しくなければならないか、という話を挟む。その瞬間、ちらりと僕の方を見た気がした。そこから僕が意味を汲み取ることを期待している。僕はわかっていてわざと汲み取らない。
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