かわいそうなせかいとかわいそうなゆうしゃ。

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 木下と高田が一緒に塾に行く日にはヴンダーヴェルトには行かない。そういう風になっている。決めたわけじゃなく、なんとなくそんな感じになった。木下がそうしろ、と言ったのならそれは木下が決めたことになる。でも木下は、自分中心な雰囲気を常に振りまいていても、自己中の証拠みたいな発言はうまく避ける、天性の能力を持っている。木下は命令も強制もしていない。でも、そんな感じになった。うまいものだ。  そんな日は僕がヒロくんのうちに行く。ヒロくんが僕のうちに来たりはしない。昔はよく来ていたけど、ヒロくん以外来ない、ということになると母さんも父さんも悲しむから、だったら誰も来ないほうがまだましということになる。ゲーム機は、あのパーティ全員が同じものを持っているから、ゲーム自体はどこでやっても同じ。だったら悲しむ人は一人でも少ないほうがいい。  で、二人対戦で楽しめるゲームといえば格闘ゲームに限る。 「ソニックファイト」が最近のお気に入りだ。一緒に始めた頃は互角だった。でもすぐに、実力差がつき過ぎてしまったから、今ではハンデ戦をやることにしている。ヒロくんは全力で戦うが、僕は必殺技は使ってはいけない。それでも僕の勝ちが多いが時々はヒロくんが勝つ。勝った時は素直に喜んでくれるし、負けたら悔しがるけど、その悔しがりかたは僕に敬意を払った、とても素直な悔しがり方だ。     
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