かわいそうなせかいとかわいそうなゆうしゃ。

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 木下が先頭を切って歩く。高田はそれについて行きながら、妙にぐるぐると回る。現実と違って無駄な動きをしたところで疲れることはないから、たぶんこれは意味のないおもしろ人間パフォーマンスだ。佐藤とヒロくんと僕はそんな気はなくて、でも佐藤は『ダンジョンぐるぐる感はネトゲの醍醐味』とか、別にネトゲでなくても良さそうな、ちょっとだけ面白そうでやっぱりその実、何の意味もない言葉を並べるパフォーマンス。  そんなことをやっている間に、ほんとうにぐるぐるとみんなが回っている。元来たところに戻ったらしい。時々敵が湧いてきて、じりじりとみんなのHPが減ってゆく。まだMPは潤沢にあるし、赤いバーが緑になるのを繰り返して普通はボスに近づくけど近づいている気配がない。木下が道に迷ったのだ。  また木下が同じところを右に曲がろうとするから、ここは左だろう、と思って僕は左に行く。 『おーい、どこ行くんだ』木下はあくまで自分について来てほしいらしい。僕はタイピングは面倒くさいからしたくないんだけど、もそもそとタイプする。 『こっち』 『そうなん? 絶対?』 『たぶん』  ずっと同じところを回っていて、さっきもその前も右に行ったから間違いなく左。そう長々とタイプするのが面倒くさいから三文字で済ます。 『とりあえずこっち行ってみよう』木下はあえて右を選ぶ。僕は別に説得しない。もう一度回ればいいだけだ。  でもそうするとまた同じところに舞い戻る。     
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