甥が見たモノ

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   これは、十年以上前の話だ。  保育園に通う前の甥(おい)が、よく母――私の姉に連れられ実家である我が家に遊びに来ていた頃だから、当時甥は三歳くらいだったはずだ。  ようやくつたないながらも会話が成り立つようになったその頃、外でひとり遊んでいたかと思うと、泣きながら駆け戻ってくる。そんなことが、度々起こるようになった。 「ジブ! ジブがいるよ!」  どうしたのか聞くと、決まって甥はそう言って何もいない場所を指差しては、私や姉にしがみついておびえるのだ。  しばらくあやすと落ち着くのだが、中でも甥が頻繁に「ジブがいる」と指差したのは、我が家のほぼ目の前にある墓地だった。  我が家は寺だ。といっても、住職ではなく、管理人として暮らしている。  だから境内を出て道を渡ればそこは、こぢんまりとしてはいるが、戦前からある墓地なのだ。  道路に面した部分はブロック塀があるが、東側の畑と駐車場に面した部分には柵しかない。  甥はその並び立つ墓石が丸見えの空間を指差して、泣くのだった。  とはいえ、甥の言う「ジブ」がなんなのか、私はもちろん母親である姉にすら分からない。  まだ墓地の意味すら理解していないからだろう、普段は甥も全くおびえる様子も怖がる素振りも見せず、墓地の周りの道路を駆け回っていた。
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