見ていた親子

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 その母子を、私は毎朝見かけていた。  私はいつもこれと決めた通勤電車に乗るために、朝の七時半ぴったりに家を出る。  家から駅までの道の途中。その若い母親と、五歳くらいの男の子は、いつも私の十メートル程先を手を繋いで歩いていた。  いつも後ろ姿だけだ。母親はOL風のスーツやスカート姿で、左手に鞄を持っていた。男の子は小さな紺色の野球帽に、黄色のリュックサックを背負い、母親の右手に手を伸ばしてしっかりと握っている。そして少し早足で駅へと歩いているのだ。  彼らに気付くのはいつも、寂れた蕎麦屋の前の信号から次の信号までの、十数メートルの短い歩道の間だ。  その前、そしてその先の道で彼らの姿を見たことがない。だがそれはそれほど不思議には思わなかった。蕎麦屋の横道から、この歩道に出てくるのだろう。そして、次の信号で別な方向に曲がり、幼稚園や保育園にその子を送っているのかも。そう考えていた。  いつからかは覚えていない。  気付くと、毎朝その歩道にその母子の姿を見ていた。  そんな光景を、さて、何ヶ月見続けていたことだろう。  ある日のこと。私は、その蕎麦屋の前の信号を通り過ぎた時に、母子の姿が 目の前にないことに気付いた。
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