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 ボストンバックを開いたまま、私はタンスの木目を見つめていた。 「あなた、汗拭き用のタオルは一枚でいいわよね」  妻の声に、 「ああ、そうだなあ」  答えなければと思いつつも考えるのが億劫な私に、妻が眉を寄せて笑った。幼い息子を相手にするときと同じ表情だ。 「のんびりしないでよ。いい歳して手がかかるんだから」  時々、妻の目には私が子供に映るらしい。 「一切手のかからない人間なんていないだろ」  四三歳になる私は唇を尖らせた。  私は甘えたがりだ。  二八歳の妻は、そんな私を優しく包んでくれる。  私たちは上司と部下から社内恋愛へと至り、結婚した。妻が言うところの『オフィス・ラブ』だ。そして、こうした表現一つで年齢の差を感じる私は結構なオジサンなんだろう。妻が言う『ジェネレーション・ギャップ』ってやつだ。  開けっぱなしの窓から、蝉の声が聞こえてくる。遠くからと近くからの声が混ざり、頭がぐわんぐわんとしてくる。そのせいか、なんだかだるい。 「この時期の出張が一番嫌だね」  抜けるような青空に、私は溜め息をついた。 「仕方がないでしょ。仕事なんだから」     
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