01 凱旋

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〇  広間の左右にはいくつか扉があり、書庫や倉庫、食堂や風呂のある通路へとつながっている。  ミケは正面から見て右手前にある扉を通り、その先にある書庫の扉を三度たたいた。たぶんミケを呼び出した人物はここにいるのだろうと見当をつけて。 「俺だ。戻ったぞ」  数拍置いて、中から「おう入れ」と返事がある。ミケは扉を開けて体を中にすべらせた。  長机の上にめいっぱい本を積み上げ、その中心でカリカリとペンを走らせている親友の姿に、ミケは思わず小さな声で笑う。 「邪魔したようだな? 部屋で待っていようか」 「や、大丈夫。悪いなミケ、あとちょっとで写し終わる」 「ならここで待とう」 「すまん、助かる。てか、おかえり」 「ただいま」  交わす言葉はどれも短い。だがミケはそれだけで通じる相手がいることに安堵し、口元をゆるめた。  しばしの暇をつぶそうと、ミケは長机の上に積み上げられた本たちの背表紙を眺めた。  ミケは即座に眉尻を下げる。  読めない。  どれもがいまの言葉でなく、旧時代の言葉で書かれたもののようだ。  彼――ザクセンもまた勇者だが、ミケとは違って最前線で戦うことを次代の勇者に譲り、魔物と魔法の研究に血道を上げている。  裏方に回ったザクセンに何度か協力したこともあったがそれも一部だけで、彼の研究は自分の力の及ばない場所まで進んでいるのだな、と感心する。  旧時代の文化も積極的に取り入れて自分のものにしているザクセンを、ミケは尊敬していた。
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