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やがてザクセンはペンを置き、肩を回しながら大きなあくびをした。
「いつから寝てないんだ」
「んあ? あー、今朝の朝日は目にしみたなってのを、何回か」
どうやら何日も寝ていないらしい。自由に跳ね回る濃い青色の髪をがしがしとかきながら、ザクセンは椅子から立ち上がる。そしてミケの手を取ると「上行こうぜ」と促した。
ザクセンに手を引かれるままに、扉を通って広間を抜け、階段を上がった。吹き抜けを丸く囲む回廊の突き当たりにはまた扉があって、入れば中庭に面した窓の並ぶ廊下に出る。中庭と反対の面には、客間へ続く扉が六つ並んでいた。
こんなに部屋数は必要ないが、ここの客間はすべて勇者が自由に使っていい部屋になっている。ミケのようにめったなことでは帰らない勇者もいるので部屋割りは決まっていないが、ザクセンのようにファーレンシアに常駐している場合はその限りではない。
西側の廊下に出て、角部屋まで突き進む。
窓が多いからという理由でザクセンは角部屋である一の間を好んでいたのだったか、とミケは思い返した。
ザクセンは部屋の扉を開けると一直線に寝台へ歩き、ミケの手をつかんだまま倒れ込む。流れるようにそうされて、ミケは身構えることもなくザクセンと共に寝台に沈んだ。
「おっ……と、おい、こら……まったく」
ザクセンに腰を引き寄せられて抱き枕のようにされ、ミケは呆れたようにため息をつく。
彼がマイペースなのは今に始まったことではない。
「ザックお前なあ……」
親しみを込めたあだ名で呼ぶと、ザクセンはミケの胸元にすりすりと顔をすり付けて癖毛を揺らした。
しょうがないな、と思いながらもザクセンの髪に指を通して撫でてしまう。
もっと甘やかせ。とばかりにザクセンはさらにミケの胸に顔をうずめた。
眠いときのザクセンはいつもこうだ。
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