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「はー……生き返る。横になるだけでも違うわやっぱ」
「俺まで横になる必要はないだろう」
「いやミケがいるのといないのとでも違うって。てか、お前だって歩き詰めで来たんだろ。休め休め」
歩き詰めというのは図星だった。知らせを受けてから三晩歩き通しで来たことも、この男にはお見通しだったか。
勇者の体は、肉体の疲れをほとんど感じないようにできている。
ただ睡眠だけは何日もとらずにいるとさすがに頭が働かなくなってきて眠気を感じる。集中力を必要とする作業をしていれば起きていられる時間も少なくなる。
だから何日かに一度は軽くでもいいので勇者は眠る。
正直ミケは、そこまで眠くはなかったが、ザクセンに休めと言われるととりあえず一眠りという気持ちになるから不思議だった。
二人してまどろみながら、適当に話を続ける。
本題の話は一眠りしたあとでもかまわないだろう。
「しっかし珍しいな。俺はてっきり知らせを受け取った瞬間お前がここに戻ってくるもんだと思ってたぜ」
「急ぎだとは知らされなかったからな。たまには歩くのもいい」
ミケは目を閉じながら知らせを受け取ったときのことを思い出した。
配達を頼まれたほかの勇者がザクセンからの手紙を持ってきてくれたのだ。
「ちょっと帰ってこい」とだけ書かれたその手紙には少し含みもあるような気がして、即時で帰ろうと思わないでもなかった。
勇者には、勇者にしかできない高速帰還法がある。
それを使うとファーレンシアの城に即刻戻ってこられるが、実行には必ずといっていいほど痛みが伴うため、勇者はあまり好まない。緊急も緊急のときにしかその方法は使われないものだ。
それでも単純にはやく帰りたい場合は使う。ミケは普段これを使って帰っていた。
だが結局、ミケは今回、歩きたい気分になったのだ。
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