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「まあ、勇者のいい宣伝にはなったろう」
「宣伝なんざしなくたって、ミケ様にゃみんな心酔してるだろ。最近じゃ神様以上に信仰されてねえか?」
「言い過ぎだ」
よしてくれ。ミケはうとうとしながらも、不満そうに告げた。
民衆の熱い視線は、最近たしかにいっそう熱の入ったものになったように感じてはいたが、そもそも勇者の力はファレスの加護あってのものとされている。
勇者の自分が信仰されるのはなにか違うだろう。
「ま、そりゃそうと随分派手なご帰還だったそうじゃねえか」
「耳が早いなザック」
もう聞きつけていたのか。ずっと書庫にいたんじゃないのか。
眠気に押されながらザクセンに聞く。
答えようとするザクセンの声音もどこかふにゃふにゃしていた。
「俺の耳はどこにでもあるんだぜ」
「なんだ……また新しいものを発明したのか」
「おうよ……『無線』って代物の、真似事がしたくてな……」
「旧時代の文明か……そうか……耳……ザックはすごい……な……」
その言葉を最後に、部屋には寝息が二つばかり響くだけになっていた。
○
ふと目を覚ますと、ザクセンが寝台の上に腰掛けて本を読んでいる後ろ姿が目に入った。
どうやら思ったよりも頭が疲れていたらしい。帰還の際にいくつか慣れない系統の魔法を披露したせいかもしれない。
だがまあ、一度眠った以上いまは頭がすっきりとしている。
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