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そんなことがありえるのか。ミケは目をみはって動きを止めた。
ファーレンシア国内で人を襲い、誰にも気づかれずに人一人をさらうなどということが魔物にできるはずがない。今までミケが見てきた魔物には、知能はあっても知性や理性はなかった。
本能のままに人を襲い、なぶり殺し、さもなくば犯すのが魔物。
町中で迷子を装ったり、遠くへ連れていって隠蔽しようとするなど、今までの魔物では考えられない。
「で、魔物の動きがなんか妙だなって気づいたテオがそのあたりを探ってたら見つかって、保護されたってわけだ」
「よく無事だったな」
「これは俺の推測なんだが、種付けされたからなんじゃねえかな」
「つまりそいつが、そのあたりにいる魔物とは違うということか」
魔物はその体の大きさで強さが決まり、序列も決まる。強い魔物は弱い魔物を食らうこともあり、また弱い魔物は強い魔物を避ける傾向がある。その優劣を彼らがなにによって見分けているかは明確にはわかっていないが、においではないかとザクセンは語る。
だから強い魔物のにおいを体中に受けた場合、弱い魔物は寄ってこない。被害者が幸か不幸か森の真ん中で生き残れたのはそれが理由だろう。
となると厄介だ。
子どもの姿をしていても、凡百の魔物よりも強い人型の魔物。
相手をするのは容易ではないだろう。
「そこで、一番経験豊富でいろーんなことに対処のきく最強の勇者様に、いっちょ一肌脱いでもらえねえかなと思って呼んだわけだ」
「なんだ、そんなことなら急ぎで呼び出してよかったんだぞ」
「つっても五日足らずで来たろ。それに相手は子どもの姿してるっつっても、国内に潜んでるかもしれない知性のある魔物だ。あんまりことを荒立てて、こっちが必死になってることを悟られても面倒だ」
ま、ここは余裕ぶっておこうぜ。とザクセンは口角を上げた。
それを受けてミケもふっと口元を緩めた。
「最強かどうかは知らないが、まあ尽力させてもらう」
「謙遜すんなって。被害者はこことは吹き抜けを挟んで反対側の角部屋に寝かせてる。今はだいぶ落ち着いてるから、話も聞けるんじゃねえかな。それからテオも国内に滞在中だ。どっか警備してると思うぜ」
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