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そろそろ目的の場所へつく頃だろうかと、ミケは拳に付着した返り血を横に払いながら思った。
ミケの足元の草原には血にまみれた大小さまざまな肉の塊が転がっている。
周囲には人間の腕が六本ばらまかれて落ちていた。だがその腕はよく見れば、人間のものではないようだ。
腕は皮膚に覆われておらず、むき出しの筋肉が赤黒い色をさらしている。また、切断された肩から肘までの長さよりも、肘から手首までの長さのほうが異様に長い。指も普通の人間の二倍は長さがあり、指先についた爪は獣のそれのように鋭く尖っていた。
人間ではないこの肉塊は、ゴブリン級と称される魔物の残骸だ。
ミケはその肉塊がぴくりとも動かないでいるのを確認してから背を向ける。背後で魔物の形が砂のように崩れ去った。拳に付着していた魔物の血液もさらさらと風に流れて消えた。
吹き抜けた風は、彼の亜麻色の長い髪をもてあそぶ。
光の当たった部分を反射して、ミケの髪は白く光って見えた。きらきらとひるがえる銀糸を遊ばせながら、風の神の加護を受けた土地には気持ちの良い風が吹くものなのだろうなと、ミケは目を細めた。
この大陸で広く信仰されている風神ファレスは、風と共に癒やしと恵みを運ぶのだという。ミケはその伝承を信じているわけではなかったが、いまこのときばかりは心地よい風に、そういう奇跡があっていいと思えた。
いまミケが目指している宗主国ファーレンシアは、その神を信仰するファレス教の総本山だ。
馬車の轍が残る街道を歩くミケの足元には、色濃く短い影がついてきている。
遠くのほうに灰白色の塊が見えるが、それがファーレンシアの外観で間違いない。
領地の外周を石の壁と、水の流れる堀に囲まれた堅牢な要塞。旧時代に建造されたらしいそこへ、ファレス教信者たちが移住し国を作った経緯をミケはよく知らない。
ただ、ここが外敵から身を守るにたやすい場所だということは自然と理解できた。
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